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復帰間近のマー君も”被害者”に – なぜ海を渡る投手はけがに泣かされるのか

復帰間近のマー君も”被害者”に – なぜ海を渡る投手はけがに泣かされるのか

7月に右ヒジ靭帯(じんたい)の部分断裂が発覚したために戦列を離れていた田中将大(ヤンキース)が、9月22日にメジャー復帰できそうだ。ただ、約2カ月を棒に振ってしまったため、視界にとらえていたメジャー1年目での最多勝を達成することはかなわなかった。

マー君だけではない。近年は日本人メジャー投手の受難が続いている。ダルビッシュ有(レンジャーズ)も右ヒジ炎症で故障者リスト入りし、今シーズンの登板はもうない可能性が高い。右ヒジのトミー・ジョン手術から復帰した松坂大輔(メッツ)や藤川球児(カブス)もいまだ苦戦中だ。同じく同手術から復帰し、今季にメジャー初勝利を飾った和田毅(カブス)も、来年の契約が100%保証されているわけではない。なぜ、メジャーに渡った日本人投手はこうも故障に泣かされるのだろうか?

故障の原因としては、ダルビッシュも異議を唱えたメジャーの「中4日」の登板間隔や日本特有の「投げ過ぎ」など、さまざまな仮説が立てられている。 そこで本稿では、投球フォームや体の使い方といったスポーツの動作分析に詳しい「タイツ先生」こと自然身体構造研究所の吉澤雅之所長に、メジャーで故障し やすいフォームの特徴や、「投げる」という行為が体にもたらす影響を解説してもらう。

「投げる」という行為の特殊性

「投手の故障原因を考察する前に踏まえてほしいのが、『投げる』という行為はそもそも体への負荷が大きい、ということです」

開口一番、こう答えた吉澤所長。「投げる」動作は、普段の生活の中はもちろん、他のスポーツでもめったに見られない体の使い方だという。それゆえ、 肩やヒジへの負荷が大きく、摩耗して痛めやすくなる。故障を防ぐためにインナーマッスルを鍛えることが推奨されているが、インナーマッスルはいくら鍛えて も使うたびに減ってしまう。

「メジャーでも活躍した大塚晶文さん(元近鉄ほか)に聞いた話では、シーズン中、毎日のようにインナーマッスルのトレーニングをしていても、シーズ ン後のメディカルチェックでは、インナーマッスルの筋量がシーズン前よりも減っていたそうです。つまり、『投げる』という行為はインナーマッスルを消耗してしまうんですね」

“理想の投げ方”でも肩は擦り減る

消耗するのは筋肉だけではない。

「工藤公康さん(元西武ほか)が現役最後の頃に検査したところ、肩の『関節唇』という緩衝剤のような部分が通常の3分の1の量まで擦り減っていた、と。現役時代が長かったとはいえ、”理想的な投げ方”といわれる工藤さんですら摩耗してしまうのが『投げる』という行為なんです」

そして筋肉と違い、「靭帯」(じんたい)は鍛えることができない。靭帯(じんたい)を故障しないためには、そもそもの靭帯(じんたい)の強さと、体の1点だけに負荷をかけないバランスの良い投げ方が求められるのだ。

メジャーのマウンドの固さ

ではなぜ、アメリカに渡ったとたん故障する事例が相次ぐのか? それは、意識的か無意識かの違いはあれど、アメリカのマウンド特有の「固さ」がもたらす投げ方の変化ではないか、と吉澤所長は指摘する。

「メジャーに挑戦中の渡辺俊介(現米独立リーグ所属)投手は、『アメリカのマウンドはアスファルトのように固い!』と言っていました。日本では、踏み込んだときスパイクで地面が掘れます。でも、メジャーのマウンドではスパイクの歯が地面に突き刺さって、踏み込んだ足 に全く遊びがない状態です」

上半身主導で投げるメジャー投手と違い、日本人投手の投げ方は下半身主導。踏み込む際につま先から入り、親指の付け根から着地する選手が大多数だ。

「このフォームのままメジャーの固いマウンドで投げると、踏み足がつっかかり、体重移動がしにくいばかりか、リリースの感覚も変わってしまいます。ただでさえ負荷の大きい『投げる』行為なのに、慣れ親しんだフォームとの差異がより大きな負荷をもたらします」

踏み足の違いと故障の可能性

それゆえ、吉澤所長は「踏み足」を見れば、その投手がアメリカのマウンドに対応しやすいかどうかがわかるという。

「和田投手も藤川投手も、踏み足は『つま先』から着地するタイプです。これは故障するだろうなと思いました。岩隈久志投手(マリナーズ)は『フラッ ト』に着地するタイプ。黒田博樹投手(ヤンキース)は『かかと』から。ダルビッシュ投手はメジャー2戦目までは『つま先』着地だったんですが、3戦目から 改良しました。このあたりはさすがです。そして、田中投手は岩隈投手と同じ『フラットタイプ』。故障はしにくいと思ったんですが……」

日本人投手が順応に苦労することが多い「マウンドの固さ」に関しては対応できていたという田中将大。では、なぜ右ヒジは部分断裂してしまったのか? 次回では、マウンド以外の部分でフォームが崩れる要因を検証する。

 

※タイツ先生/1963年生まれ、栃木県出身。本名は吉澤雅之。「自然身体構造研究所」所長として、体の構造に基づいた動きの本質、効率的な力の伝え方を研究している。ツイッターでのつぶやきもおこなっている。

 

・2014年9月19日 マイナビニュース提供記事
http://news.mynavi.jp/news/2014/09/19/097/
※イマジニア株式会社ナックルボールスタジアムが著作権その他の権利を有する記事コンテンツを、マイナビニュースで配信したものです。

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