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映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』山崎エマ監督インタビュー!

映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』山崎エマ監督インタビュー!

「甲子園」「高校野球」を伝える海外向け作品として制作、アメリカで上映、放送されると大きな話題を呼んだ映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』。8月より日本でも上映されています。

海外向けとして作られてはいますが、もちろん日本の高校野球ファン、高校野球経験者の胸を打ってきた本作品。

どのような背景で作られ、どんな作品のポイントはどこなのか、監督を務めた山崎エマさんにインタビューしました!

上映情報など:https://koshien-movie.com/

▲山崎エマ監督

《70・80年代の高校野球が大谷翔平に辿り着くまで》

―― そもそも今回の映画で密着したのは、なぜ横浜隼人高校と花巻東高校だったんでしょうか?

山崎:よく、「きっかけは大谷翔平選手(エンゼルス)ですか?」と言われるのですが、入口は横浜隼人なんです。作品をつくる際には「運命の出会い」みたいなものが必要とよく言われますが、今回の映画では本当にそのことを実感しました。

海外の方に「甲子園」「高校野球」を伝えるため、全国に4000校もあるなかで、どこを対象に撮ればいいかはすごく悩みましたし、単純には選べない。そこで、2つのキーワードをつくりました。

ひとつは、アメリカ人も興味が湧くよう、知名度のあるメジャーリーガーとつながりのある学校を描くこと。もうひとつは、「夏の甲子園・第100回大会」の年を追うからには高校野球の歴史的な背景も伝えたいと考え、ベースボールが最初に日本に上陸し、「野球道」へと変化したきっかけでもある横浜の学校を描けないか、ということ。

そこで、以前からの知人であり、池田高校の蔦文也監督のお孫さんである映画監督の蔦哲一朗さんに相談したところ、徳島出身で甲子園出場経験もある横浜隼人の水谷哲也監督を紹介してくれたんです。

その最初の顔合わせの際、ある部員が「僕たちはここで日本一の練習をしています。ぜひ撮影して、世界の人に見せてください」と挨拶してくれました。なんの準備もなく、そんな言葉が出ることに圧倒されるとともに、ここには絶対に何かあるな、と思った瞬間でした。

―― その横浜隼人を探ってみたら、結果的に花巻東につながった、と。

山崎:そうなんです。花巻東の佐々木洋監督が横浜隼人でコーチをしていた、水谷監督と師弟関係があった、というのは後になってわかったこと。しかも、今度はその花巻東に水谷監督の息子さん(水谷公省、現3年)が入学するというタイミングでした。

そのうえ、大谷選手がメジャーに移籍する時期とも偶然重なり、撮影後に編集している過程で今度は菊池雄星投手(マリナーズ)がメジャーに挑戦することに。もともと考えていた「メジャーリーガーとつながりのある学校」とも運命的に結びつくことができたんです。

結果的に、蔦文也監督のエピソードを通して70・80年代の高校野球事情も見せつつ、蔦監督から水谷監督へ。水谷監督から佐々木監督、そして大谷選手へ……系譜が連綿とつながっていく縦軸をつくることで、もともと考えていた「高校野球の歴史的な背景も伝える」役割も果たせたのかなと思います。

《「ひと夏の物語」では終わらない、連綿と続く高校野球》

―― 今回の映画を通して、山崎監督自身が改めて気づいた高校野球の魅力、驚きはなんでしょうか?

山崎:「甲子園」とタイトルに掲げつつ、撮影を始めると撮影現場は甲子園球場ではなく、そこに辿り着けることを願う学校のグラウンドや日々の練習の場でした。ただ、私自身は野球の技術や練習方法のよし悪しなどはわかりません。だからこそ、監督が打ち出す「人間教育」の部分に目が向きました。

4000校のなかで甲子園に行けるのは本当に一握りですが、そこを目指すからこそできる教育がある。大きな夢舞台を目指しつつも、辿り着けなくても無駄じゃない時間にするために、あらゆる監督さんたちが様々な手法、スタイルで球児たちと接している、ということに気づきました。

―― 「人間教育」という観点で、水谷監督の言葉・教えで特に印象深かったことは?

山崎:印象的なのは、やはり『野球は“ホーム”に“人”が帰るスポーツ。だから、人と人のつながりが大事』というもの。そのために声をつなぎ、ボールをつなぎ、打線をつないでいく。

人と人のつながりが大事だからこそ、部活を引退したら関係性は終わり、ではなく、水谷監督は部員一人ひとりの進学・就職までも自分ごとのように力を入れています。

今回の映画公開をきっかけに、撮影当時3年生で現在20歳の子たちとも再会することができたんですが、「2年経っても、野球を続けていてもいなくても、水谷監督からはよく連絡が来る」と言っていました。

結局、球児たちは桜の花びらのように、3年の夏が終われば一旦は散ってしまう。そして、また別のステージで花を咲かせる。でも、監督さんたちは負けた次の日に同じ場所で新チームをスタートさせる。その切り替えのスピードにも驚きましたし、それを30年近く繰り返している水谷監督のことを考えると、想像を絶するというか……。

だからこそ、球児はもちろん、監督を映画の主軸に置くことで、単なる「ひと夏の物語」では終わらない時代の流れ、高校野球が100年続いてきた背景が描けるのではないか。さらに言えば、高校野球の昔から変わらない部分と、いままさに変わろうとする部分、その両方を描くことで“日本的思考”や“日本人らしさ”も表現できるのではないか。そんな思いもあって、この映画では「監督目線」も重視しています。

▲水谷哲也監督と横浜隼人高硬式野球部

――「KOSHIEN」を知ることで、「NIPPON」がわかる、と。

山崎:これまで日本の高校野球は、海外にその全貌が伝わっていませんでした。報道でアメリカまで届いていたのは、「投手の投げ過ぎ問題」や「故障が多い」といったネガティブなイメージばかり。田中将大投手がヤンキースで活躍し、「ポストシーズンになぜ田中将大は強いのか」といった現地記事を読んでも、「高校野球を経験したから」というところにまでつなげるメディアはありません。

でも、私は高校野球を経験した影響だってあるはずだと思うんです。そういった目線、そして何よりも日本の高校野球、高校球児の生態はアメリカ人にとって驚きの連続だったようで、日本のなぞ解きにも貢献したのかなと考えています。海外でも日本でも、もっともっとたくさんの人の目に届いてほしいですね。

▲野球をやるだけが「高校野球」ではない、と体現するような存在であり、編集部が裏の主人公と勝手に思っている、1年生指導係を務めた当時3年生の向井桂舟さん

取材・構成=オグマナオト

〈作品情報〉

映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』

監督・編集:山崎エマ

出演:水谷哲也(横浜隼人高硬式野球部監督)、佐々木洋(花巻東高硬式野球部監督)

   大谷翔平(エンゼルス)、菊池雄星(マリナーズ)

上映情報などは公式ホームページでご確認ください→→https://koshien-movie.com/

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